インプラント周りの歯茎に起こる変化には、細菌による炎症で起こるものと、炎症を伴わずに歯茎が下がったり薄くなったりするものがあります。見た目だけではどちらか区別しにくく、炎症は痛みが出ないまま進むこともあるため、気になる変化に気づいたら治療を受けた歯科医院で診てもらうのが基本です。
この記事でわかること
- 歯茎トラブルを症状から見分ける方法と、受診の目安
- インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎の違い
- 歯茎が下がる・金属が見える・黒っぽく見える原因
- 下がった歯茎への対応と、トラブルを防ぐために続けたいこと
インプラントの歯茎トラブルを見分けるには|症状別の受診目安
インプラント周りの歯茎の変化は、症状によって受診の急ぎ方が変わります。腫れ・出血・膿・ぐらつきがあれば、次の定期検診を待たずに歯科医院へ連絡しましょう。日本口腔インプラント学会も、治療した部位に変わったことがあれば、治療を受けた歯科医院にすぐ連絡して診てもらうよう案内しています。
| 気づいた変化 | 考えられること | 受診の目安 |
|---|---|---|
| 歯茎が赤い・腫れている、歯みがきで血が出る | インプラント周囲粘膜炎(歯茎だけの炎症)の可能性 | 早めに受診する |
| 膿が出る、噛むと痛い、インプラントがぐらつく | インプラント周囲炎が骨まで進んでいる可能性 | できるだけ早く受診する |
| 歯茎が下がって根元の金属が見える、歯が長く見える | 炎症による骨の減少、または歯茎や骨がもともと薄い | 痛みがなくても一度診てもらう |
| 歯茎が黒っぽい・灰色に見える | 薄い歯茎から金属の色が透けている、または炎症 | 次の受診で相談する。腫れや出血を伴うなら早めに |
| 手術後しばらくの腫れ・痛み | 傷が治る過程で起こる反応 | 手術を受けた歯科医院の指示に従う |
炎症があるかどうかは、歯茎の見た目だけでなく、ポケット(インプラントと歯茎のすき間)の深さや出血・膿の有無、エックス線写真を合わせて判断されます。自分で「様子を見てよい」と決めず、判断は歯科医院に任せてください。
手術直後の腫れとの違い
埋め込み手術のあとの腫れや痛みは、傷が治る過程で起こるもので、経過は手術の範囲や体の状態によって変わります。治療が終わって人工の歯が入ったあとに起こる腫れは、傷が治る過程の反応とは分けて考えます。手術後の経過と、手術直後に注意したい症状は次の記事で確認できます。

参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会「よくあるご質問」
インプラントの周りの炎症|周囲粘膜炎と周囲炎の違い
炎症の広がり方によって、2つに分けられます。歯茎だけに炎症がとどまる「インプラント周囲粘膜炎」と、炎症が骨にまで広がり、骨が溶けていく「インプラント周囲炎」です。どちらも主な原因は、インプラントと歯茎のすき間にたまるプラーク(細菌のかたまり)です。
| インプラント周囲粘膜炎 | インプラント周囲炎 | |
|---|---|---|
| 炎症の範囲 | 歯茎(粘膜)だけ | 歯茎から周りの骨まで |
| 主な症状 | 歯茎の赤み・腫れ・出血 | 腫れ・出血に加え、膿、歯茎が下がって根元が見える、ぐらつき |
| 主な対応 | 歯肉炎に準じて、すき間の汚れを取り除き洗浄する | 汚れの除去に加え、インプラントの表面を清掃する外科的な処置などを検討する |
インプラント周囲炎はインプラントを失うことにつながるため注意が必要だと、日本口腔インプラント学会は説明します。日本臨床歯周病学会は、日本歯周病学会がインプラント治療から3年以上たった患者267人を調べ、約1割にインプラント周囲の病気が見つかったと紹介しています。
痛みが出にくく、気づいたときには進んでいることがある
インプラント周囲炎は、歯周病と同じように、重くなるまで痛みなどの自覚症状が出にくい病気です。自覚症状が乏しいことを安心材料にせず、歯茎の腫れや出血、すき間の深さなどを定期検診で確かめてもらうと、早い段階で見つけられます。
また、インプラントは骨とはしっかり結合する一方で、天然の歯に比べて歯茎との結合が弱く、感染しやすいのが弱点です。天然の歯と同じ感覚で手入れを後回しにすると、炎症が広がる原因になります。
周囲炎が進んだときの治療
骨まで炎症が広がった場合は、汚れの除去や洗浄に加えて、歯茎を切開してインプラントの表面を清掃する処置や、失われた骨を補う再生療法が検討されます。こうした治療で改善しない場合は、インプラントを取り除くことも選択肢になります。取り除いたあとの治療は次の記事をご覧ください。

参考:日本歯周病学会 ペリオブック「インプラントの歯周病『インプラント周囲炎』について」
インプラントの歯茎が下がる・やせる原因
インプラントの周りの歯茎は、支えている骨が減ったり、歯茎そのものが薄かったりすると下がりやすくなります。主な原因は次のとおりで、1つとは限りません。
- インプラント周囲炎:炎症で周りの骨が溶けると、その上の歯茎も支えを失って下がる。前歯では見た目の問題にもつながる
- 歯茎や骨の厚み:歯茎が薄い人や、動かない丈夫な歯茎(付着粘膜)が少ない部位では、歯茎が下がりやすい
- インプラントを埋め込んだ深さや位置:骨の厚みが足りない、深く埋め込んである、といった条件では、周りの歯茎の形に影響が出ることがある
- 歯周病:歯周病にかかったことがある人は、ない人に比べてインプラントの周りのトラブルが起こりやすい
- 喫煙:歯茎の慢性的な炎症や傷の治りにくさにつながり、インプラント周囲炎を招く可能性がある
すでに治療を終えている場合は、どの原因が当てはまるのかを歯科医院で調べてもらうと、対応を決めやすくなります。
インプラントの歯茎が黒い・金属が見えるときに考えられること
インプラントの根元に金属やグレーの色が見えるときは、次の3つのどれに当たるかで意味が変わります。
- 歯茎が下がって、インプラントや土台(アバットメント)の金属部分が直接見えている
- 歯茎が薄く、下にある金属の色が透けて黒っぽく見える
- 炎症で歯茎の色が赤黒く変わっている
金属が直接見えている場合は、痛みがなくても一度診てもらいましょう。歯茎が薄いために色が透けている場合も、炎症が隠れていないかを確かめてもらったうえで、見た目が気になれば土台や人工の歯の素材を含めて相談できます。日本口腔インプラント学会の治療指針は、見た目が重視される部位では、金属よりジルコニアの土台のほうが見た目のリスクを抑えられるとしています。一方で、ジルコニアは金属より破折しやすく、土台がインプラントとの接合部で割れるリスクがあるとも書いています。
なお、人工の歯の上にあるネジ穴の蓋が取れて金属のネジが見えている場合は、歯茎の問題とは別です。対処の方法は次の記事にまとめています。

参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会『口腔インプラント治療指針2024』
下がった歯茎は元に戻る?できる対応
下がった歯茎は、移植をしても元の高さまで戻せるとは限りません。対応は、炎症があるかどうかで変わります。炎症がある場合は、まず汚れの除去や洗浄で炎症を抑え、周囲炎への進行を防ぐことが優先です。炎症がなく、インプラントも安定している場合は、清掃しやすい状態を保ちながら経過を見ることもあります。
見た目の改善や、歯茎の厚みを増やすことが必要と判断した場合は、歯科医師が歯茎の移植を検討します。インプラントの周りで行われる主な方法は次の2つです。
- 結合組織移植術:上あごの内側などから採った組織を移植し、歯茎の厚みを増やす
- 遊離歯肉移植術:表面の組織ごと移植し、動かない丈夫な歯茎の幅や厚みを確保する
どちらも、骨の状態や歯茎の量によって向き不向きがあります。仕上がりには個人差があります。移植で得たい効果と限界、費用や通院回数を、治療前に歯科医師へ確認しておくと判断しやすくなります。
インプラントの歯茎のトラブルを防ぐために
インプラントの周りの炎症を防ぐには、毎日の手入れと、治療を受けた歯科医院での定期的なメンテナンスが欠かせません。厚生労働省の委託事業でまとめられたQ&Aによれば、定期検診を受けていない人は、受けている人よりインプラントの周りのトラブルが多くなります。
- 毎日の手入れ:歯ブラシに加え、フロスや歯間ブラシでインプラントと歯茎の境目の汚れを落とす。自分に合う道具と磨き方は歯科医院で教わる
- 定期的なメンテナンス:歯茎の状態、すき間の深さ、噛み合わせ、人工の歯の状態を確認してもらう。通う間隔は口の中の状態に合わせて歯科医師が決める
- 禁煙:喫煙はインプラント周囲炎を招く要因の1つ
- 変化に早く気づく:歯茎の腫れ、出血、色や形の変化があれば、次の予約を待たずに連絡する
メンテナンスで何をするのか、通う頻度や費用の目安は、こちらの記事が参考になります。

参考:厚生労働省委託事業「歯科インプラント治療のためのQ&A」
インプラントの歯茎についてよくある質問
まとめ
インプラントの歯茎の変化には、炎症によるものと、歯茎や骨の薄さによるものがあります。腫れ・出血・膿・ぐらつきはインプラント周囲炎につながるサインで、痛みがなくても早めの受診が必要です。
歯茎が下がった、金属が見える、黒っぽく見えるといった変化に気づいたら、治療を受けた歯科医院で炎症の有無を確かめてもらい、手入れの方法とメンテナンスの間隔を見直しましょう。

医療法人煌潤会 赤羽駅前歯科 院長
西川 健太(にしかわ けんた)先生
日本大学松戸歯学部卒。国際口腔インプラント学会(ISOI)認定医・専門医、DGZI Japan認定医、厚生労働省認定臨床研修指導医。
インプラント治療歴25年以上、手術実績は通算1万本以上。
ストローマン社エクセレンスパートナーに選出され、ザイゴマインプラント等の難症例にも対応する。
自由診療に関する詳細内容
インプラント治療は、原則として公的医療保険が適用されない自由診療のため、費用は全額自己負担です。インプラント周りの歯茎を移植する処置なども、保険の扱いと費用は、事前に歯科医院で確かめておく必要があります。
- 治療内容:インプラント周りの歯茎の厚みや幅を増やすため、上あごの内側などから採った組織を移植する(結合組織移植術・遊離歯肉移植術)
- 費用(税込)の目安:移植する範囲や方法、医院の料金体系によって異なるため、検査後の見積もりで確認する
- 治療期間の目安:移植する範囲や歯茎・骨の状態によって異なる。移植した組織が落ち着くまでの経過観察の期間と通院回数も含めて、治療前に確認する
- 主なリスク・副作用:手術後の痛み・腫れ・出血、組織を採った部位の痛み、感染、移植した組織が定着しない、期待した厚みや高さが得られない場合がある
- 本記事の医療情報は一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。
- 医療・健康に関する情報は変更される場合があります。実際の受診・治療については医療機関へご確認ください。


