歯ぎしりや食いしばりがあっても、検査で状態を確かめ、対策を組み込んだ計画を立てれば、インプラント治療を受けられる場合があります。ただし、強い力が繰り返しかかると、人工の歯の欠けやネジの緩み、周りの骨の吸収につながるおそれがあるため、治療前に歯ぎしりの有無を歯科医師へ伝えておくことが欠かせません。
歯ぎしりが強い人には、就寝時に装着するマウスピース(ナイトガード)が学会の指針で推奨されています。ナイトガードに加えて、噛み合わせの確認と治療後の定期的なメンテナンスで、インプラントにかかる力を管理します。
この記事で分かること
- 歯ぎしり・食いしばりがあってもインプラントができるかの考え方
- 歯ぎしりがインプラントに影響しやすい理由と、起こりうるトラブル
- マウスピース(ナイトガード)が必要になる場合と、その限界
- ほかの対策と、治療後に受診したいサイン
歯ぎしり・食いしばりがあってもインプラントはできる?
歯ぎしりや食いしばりがあるだけで、インプラント治療ができないと決まるわけではありません。治療を受けられるかどうかは、力の強さや噛み合わせ、骨の状態、埋め込む位置や本数などをふまえて、歯科医師が検査のうえで判断します。
日本歯科医学会の「歯科インプラント治療指針」でも、ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばりなどの総称)は口の中のリスク要因(局所的リスクファクター)の一つとされます。歯ぎしりがある人は、対策を前提に計画を立てます。
治療前の検査で確認すること
治療前には、歯のすり減り(咬耗)や噛み合わせ、今ある被せ物の状態などを調べます。日本口腔インプラント学会の「口腔インプラント治療指針2024」によると、顎の筋肉の痛みや張り、頬の内側や舌についた歯の跡などは、歯ぎしりを疑う手がかりになります。噛む力が過大な人は、インプラントに過重な負担がかかるリスクを見込んだ計画が求められます。
歯ぎしりは眠っている間や集中しているときに無意識に起こるため、自覚がないまま検査で指摘される人もいます。家族から歯ぎしりの音を指摘されたことがある、朝に顎がだるいなど思い当たることがあれば、カウンセリングで伝えておくと計画に反映してもらえます。
先に噛み合わせや歯並びへの対応を考える場合
噛み合わせが安定していない場合や、向かい合う歯の傾きが適切でない場合は、インプラントを入れる前に、矯正治療や被せ物の治療で整えておく進め方もあります。歯ぎしりなどの悪習癖への対応としては、矯正治療や咬合調整も選択肢に入ります(日本歯周病学会「歯周病患者におけるインプラント治療の指針2018」)。
どの治療をどの順番で行うかは、症例ごとに決めます。インプラントは骨と結合したあとは動かせないため、矯正治療を検討している場合は、治療の順番を含めて担当医と計画を立てておきましょう。
歯ぎしりがインプラントに影響しやすい理由|歯根膜がない
天然の歯は、根と骨の間にある「歯根膜」という薄い組織を介して骨に支えられます。歯根膜は噛む力を和らげるクッションであり、どのくらいの力がかかっているかを感じ取るセンサーの役目も果たします。
一方、インプラントは人工の歯根(インプラント体)が骨と直接結合するため、歯根膜がありません。力を和らげる組織も、力のかかり具合を感じ取る感覚もないことから、人工の歯の材料選びや噛み合わせの調整には十分な配慮が求められます(「歯科インプラント治療指針」)。
歯ぎしりでは、食事のときとは違う横方向の力が、無意識のうちに長い時間かかります。日本補綴歯科学会の「ブラキシズムの診療ガイドライン」でも、睡眠中の歯ぎしりによる噛む力は過大になるとされます。強い力に気づきにくいまま負担が積み重なる点が、インプラントで歯ぎしりが問題になりやすい理由といえます。
歯ぎしり・食いしばりで起こりうるインプラントのトラブル
歯ぎしりや食いしばりの力は、人工の歯、部品をつなぐネジ、インプラントを支える骨のそれぞれに影響します。「口腔インプラント治療指針2024」でも、歯ぎしりによる過大な負荷は、ネジの破折や緩み、インプラント体や人工の歯の破損を引き起こすリスク要因とされます。
人工の歯(上部構造)の欠け・割れ・すり減り
インプラントの上に取り付ける人工の歯(上部構造)に強い力が繰り返しかかると、表面の材料が欠ける、割れる、すり減るといった変化が起こりえます。欠けた部分を放置すると、とがった縁で頬や舌を傷つけたり、噛み合わせのバランスが崩れて別の歯に負担が移ったりします。
人工の歯が壊れたときは、いったん外して修理するか、作り直します。作り直しの費用や保証の対象になるかは医院によって異なるため、治療前に保証の条件も確かめておきましょう。
ネジの緩み・部品の破損
インプラントは、骨に埋め込むインプラント体、その上に付けるアバットメント、人工の歯をネジでつなぐ構造です。そのため、適切な力で締めたネジでも、過大な力が繰り返しかかれば緩んだり折れたりします。
人工の歯がぐらつく、噛むと浮いたような感じがするといった変化は、ネジが緩んでいるサインかもしれません。ネジの緩みや人工の歯の破損を適切に処置しないまま使い続けると、インプラント体の破折や周りの骨の吸収に発展するおそれがあります(「歯科インプラント治療指針」)。
部品が外れた・ネジが見えるときの対処や、インプラントの構造は、次の記事で詳しく解説しました。


周りの骨の吸収・インプラントのぐらつき
インプラントの軸と違う向きから力がかかり続けると、首の部分の周りで骨が吸収され、ぐらつきや脱落につながりかねません。日本歯周病学会の指針2018では、噛む力が強く異常な習癖がある人も、インプラントへの過重負担を招く原因の一つに数えられます。
骨の吸収は、細菌による炎症であるインプラント周囲炎でも起こります。歯ぎしりの力と歯ぐきの炎症が重なると悪化しやすいため、力の管理と毎日の歯みがきは、どちらも欠かせない対策といえます。
歯ぎしり用マウスピース(ナイトガード)の必要性
ナイトガードが必要かどうかは、歯ぎしりの強さや噛み合わせ、インプラントの本数や位置によって変わります。「口腔インプラント治療指針2024」には、歯ぎしりの強い患者にはナイトガードの装着が推奨されると書かれています。日本歯周病学会の指針2018でも、治療前に歯ぎしりの有無を正しく調べ、必要があれば早めにナイトガードを装着することが推奨されます。
ナイトガードの役割と限界
ナイトガードは、主に就寝中に歯全体を覆うように装着する、歯科医院で作るマウスピースです。上下の歯が直接当たるのを防ぎ、インプラントや自分の歯にかかる力を和らげる目的で使います。
ただし、ナイトガードは歯ぎしりそのものを止める装置ではありません。「ブラキシズムの診療ガイドライン」でも、マウスピース(スプリント)で睡眠中の歯ぎしりを抑える効果は、短い期間の研究をもとにした弱い推奨にとどまります。インプラントを守るための補助として、ほかの対策やメンテナンスと組み合わせて使う装置と考えてください。
作るときと使い続けるときに確認したいこと
ナイトガードは、噛み合わせに合わせて歯科医院で作り、装着後も当たり具合を確認しながら調整します。使ううちにすり減ったり変形したりするので、定期的に点検し、必要に応じて作り替えます。
費用は、医院の料金体系や装置の種類、インプラント治療の費用に含まれるかどうかで変わります。治療前の見積もりの段階で、次の点を確認しておくと比べやすくなります。
- 装着の目安:毎晩使うのか、どのような場合に使うのか
- 点検と調整:メンテナンスのときに調整してもらえるか
- 作り替え:すり減ったときの作り替えの目安と費用
- 保証との関係:ナイトガードの使用が保証の条件に含まれるか
ナイトガード以外の歯ぎしり対策
ナイトガードとあわせて、力のかかり方を確認し、負担を分散させる対策を組み合わせます。
噛み合わせの確認と調整
インプラントは歯根膜がないため、わずかな噛み合わせのずれでも、ほかの歯より先に強く当たりやすくなります。人工の歯を取り付けたあとも、メンテナンスのたびに噛み合わせを確認し、特定のインプラントに力が集中していれば調整します。
なお、「ブラキシズムの診療ガイドライン」では、噛み合わせの調整によって睡眠中の歯ぎしり自体を減らせるかは、根拠となる研究がなく不明とされています。噛み合わせの調整は、歯ぎしりを治すためではなく、インプラントへの力の偏りを減らすために行います。
人工の歯の材料や設計の工夫
人工の歯の材料は、治療する部位や噛み合わせ、歯ぎしりの有無、見た目の希望などを考えて選びます。インプラントの本数が足りない、斜めに埋め込まれているといった条件は、ネジにかかる力を大きくする要因になります。
力を分散させるために、複数のインプラントを連結する設計も検討されます。どの材料や設計が合うかは人によって異なるため、歯ぎしりがあることを前提に、理由も含めて説明を受けておくと納得して選べます。
日中の食いしばりに気づく
食いしばりは、仕事や家事に集中している日中にも起こります。「口腔インプラント治療指針2024」も、トラブルへの対応の一つに、昼間の食いしばりの確認と意識を挙げます。
パソコン作業や運転中などに、上下の歯が当たっていることに気づいたら、口の力を抜いて歯を離すように意識してみるとよいでしょう。気づいた場面をメンテナンスのときに伝えると、噛み合わせの確認にも役立ちます。
歯ぎしり・食いしばりの種類と気づくきっかけ
歯ぎしり(ブラキシズム)には、眠っている間に起こるものと、起きているときに起こるものがあります。動かし方によって、次のように分けられます。
- グラインディング:歯を横にこすり合わせる
- クレンチング:上下の歯を強く噛みしめる(食いしばり)
- タッピング:上下の歯をカチカチと打ち合わせる
音が出ないクレンチングは、周りの人にも気づかれにくいタイプです。朝起きたときの顎のだるさ、歯のすり減りや欠け、頬の内側や舌の縁についた歯の跡といった変化をきっかけに、歯科医院で指摘されて気づく人もいます。
ただし、こうした症状があっても、原因が歯ぎしりとは限りません。気になる症状があれば、自分で判断せず、歯科医院で原因を確かめてもらってください。
治療後に受診したいサインと定期メンテナンス
インプラントは痛みで異変に気づきにくいため、症状がなくても定期的なメンテナンスは続けてください。日本口腔インプラント学会も、治療後の良い状態を長く保つには、担当した歯科医師による定期的な経過観察が極めて重要だと説明しています。
次のような変化に気づいたときは、次のメンテナンスを待たずに、治療を受けた歯科医院へ連絡しましょう。
- 人工の歯がぐらつく、浮いた感じがする
- 噛んだときに違和感や痛みがある
- 人工の歯が欠けた、すり減って形が変わった
- インプラントの周りの歯ぐきが腫れる、血が出る
- ナイトガードが合わなくなった、割れた
メンテナンスで行う内容や頻度は、次の記事にまとめました。

インプラントと歯ぎしりに関するよくある質問
まとめ
歯ぎしりや食いしばりがあること自体は、インプラントをあきらめる理由になるとは限りません。検査で力の強さや噛み合わせを確かめ、対策を組み込んだ計画を立てたうえで、治療を受けられるかを歯科医師が判断します。歯根膜がないインプラントは強い力に気づきにくく、人工の歯の欠けやネジの緩み、骨の吸収を招くおそれがあります。
歯ぎしりが強い人にはナイトガードの装着が推奨されますが、歯ぎしりを止める装置ではありません。噛み合わせの確認や定期的なメンテナンスと組み合わせて使う装置です。治療前のカウンセリングで歯ぎしりの有無を伝え、ナイトガードの要否や作り替え・保証の条件まで含めて、見積もりと計画を確認しておきましょう。
医療広告について
自由診療に関する詳細内容
インプラント治療は、原則として公的医療保険が適用されない自由診療のため、費用は全額自己負担です。
- 治療内容:顎の骨に人工の歯根(インプラント体)を埋め込み、骨と結合したあとにアバットメントと人工の歯(上部構造)を取り付けて、失った歯の機能と見た目を補う。歯ぎしりがある場合は、ナイトガードの装着や噛み合わせの調整を組み合わせることがある
- 費用(税込)の目安:本数、骨を増やす処置の有無、人工の歯の素材、ナイトガードの作製の有無、医院の料金体系によって異なるため、検査後の見積もりで総額を確認する
- 治療期間の目安:骨の状態、手術の方法、骨を増やす処置の有無、噛み合わせや歯並びの治療を先に行うかによって異なる
- 主なリスク・副作用:手術後の痛み・腫れ・出血、感染、神経の損傷によるしびれ、人工の歯の欠け・破損、ネジの緩み・破折、インプラント周囲炎、骨との結合が失われることによるぐらつき・脱落
- 本記事の医療情報は一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。
- 医療・健康に関する情報は変更される場合があります。実際の受診・治療については医療機関へご確認ください。


