インプラントは糖尿病でもできる?HbA1cの考え方・注意点・治療前の準備を解説

糖尿病のある患者がインプラント治療について歯科医師に相談している様子

糖尿病があっても、血糖がコントロールされていれば、インプラント治療を検討できる場合があります。日本歯周病学会のガイドラインも、糖尿病があることだけで治療を避けるのではなく、血糖の状態によって考え方を分けています。

つまり、判断の軸は「糖尿病かどうか」ではなく、血糖の状態と全身の状態です。治療できるかどうかは、内科の主治医と歯科医師が検査結果をもとに判断します。

この記事でわかること

  • 糖尿病の方のインプラント治療について、学会のガイドラインで示されていること
  • HbA1cの数値をどう考えればよいか
  • 糖尿病があると注意したい点(傷の治り・感染・インプラント周囲の骨や歯ぐき・低血糖)
  • 治療前に主治医と歯科医院へ伝えること、確認すること
目次

糖尿病でもインプラント治療はできる?

インプラント治療は、顎の骨に人工の歯根(インプラント体)を埋め込む外科手術を伴います。そのため糖尿病の方は手術後の傷の治りや感染に注意が要りますが、糖尿病があるだけで受けられないわけではありません。

学会のガイドラインでは「血糖の状態」で分けて考える

日本歯周病学会のガイドラインは、「糖尿病患者に対してインプラント治療は避けたほうがよいか?」という問いを取り上げています。

  • コントロール良好な糖尿病の方には、インプラント治療を弱く推奨する
  • コントロールが不良な場合は、傷の治りや感染のしやすさの点から、負担の大きい処置を避けるべき

ただし、この推奨は観察研究にもとづくもので、ガイドラインではエビデンス(根拠となる研究)の確実性は「低」、推奨の強さは「弱い推奨」と位置づけられています。糖尿病があるからといって一律に治療できないわけではありませんが、誰でも問題なく受けられると言い切れるものでもありません。

治療が難しいと判断されやすいケース

血糖の状態のほかに、糖尿病の合併症を含めた全身の状態、歯周病の有無、喫煙なども確認されます。日本口腔インプラント学会は、糖尿病や骨粗鬆症などの疾患がある場合は注意が必要だと案内しています。また、歯周病のある方や喫煙する方では、治療後のインプラントの残存率が低いことが知られていると説明しています。

参考:特定非営利活動法人日本歯周病学会「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版 2023」

参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会「よくあるご質問」

HbA1cはどのくらいが目安?

HbA1cは、血糖の状態を示す検査値のひとつです。インプラント治療を受けられるかどうかを考えるときにも、主治医や歯科医師が参考にします。

前述のガイドラインには、備考として「HbA1cが7%程度までにコントロールされている場合には、インプラント治療を妨げるものではない」との記載があります。あわせて、糖尿病のある方ではインプラント周囲の骨の吸収が増えることが予測される、とも書かれています。

この数値は、手術を受けられるかどうかを線引きする基準ではありません。実際の判断では、合併症の状態、使っている薬、口の中の状態、手術の範囲なども考え合わせます。医院によって判断の目安が異なることもあるため、数値は主治医と歯科医師の両方に伝えたうえで、自分の場合はどうかを確認しましょう。

糖尿病の方がインプラントで知っておきたい注意点

血糖の状態によって、手術後の経過や、長く使っていくうえでの注意点が変わります。

傷の治りと感染

血糖のコントロールが不良な場合は、傷の治りが遅れたり、感染を起こしやすくなったりします。ガイドラインによると、血糖のコントロールが良好な方では、手術した部位の感染リスクは健康な方と同じくらいです。一方、コントロールが不良な方の外科治療では、手術の前後に感染予防の抗菌薬を使うことを勧めています。

抗菌薬の使い方は、血糖の状態や手術の内容に応じて歯科医師が決めます。処方された場合は、指示どおりに飲みきりましょう。

インプラント周囲の骨と歯ぐき

ガイドラインがまとめた研究結果では、インプラントの脱落や動揺については、糖尿病のある方とない方の間で明らかな差は認められていません。一方で、インプラント周囲の骨の吸収が糖尿病のある方で大きかったという研究も報告されています。インプラント周囲の歯ぐき(粘膜)の障害にも、糖尿病が関連している可能性があると書かれています。

インプラントの周りに炎症が起こり、支える骨が減っていく状態を「インプラント周囲炎」といいます。治療後も長く注意が要るため、定期的なメンテナンスが欠かせません。

糖尿病と歯周病の関係

糖尿病と歯周病は、互いに影響し合う関係にあります。日本歯科医師会によると、糖尿病があると歯周病の進行が著しく促進されます。反対に、進行・重症化した歯周病は血糖の管理に影響し、歯周病を治療すると糖尿病が改善する例もあると紹介しています。歯周病がある場合は、その治療も含めて計画を立てることになります。

手術の日の低血糖

糖尿病の薬を使っている方は、低血糖にも注意が必要です。糖尿病情報センターは、低血糖の原因として、食事の量や炭水化物の不足、薬を使ったあとの食事時間の遅れなどを挙げています。あわせて、車を運転する方には、ブドウ糖やブドウ糖を多く含む食品を車に常備するよう呼びかけています。

手術の前後は、緊張や食事のタイミングの変化が重なります。予約の時間帯、当日の食事、薬を飲む・打つタイミングは、主治医と歯科医師にあらかじめ確認してください。

薬を自己判断で減らしたり止めたり、食事を抜いたりするのは避けましょう。手術中に冷や汗や手の震えなど、いつもの低血糖に似た症状が出たら、すぐに伝えてください。

参考:公益社団法人日本歯科医師会「テーマパーク8020 歯周病と糖尿病」

参考:国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター「低血糖」

治療前の準備|主治医と歯科医院へ伝えること・確認すること

糖尿病の方のインプラント治療は、歯科医院だけで判断せず、内科の主治医と情報を共有しながら進めます。受診前に、次の項目を整理しておくと相談がスムーズです。

スクロールできます
相手伝えること・確認すること
歯科医院に伝える糖尿病の種類(1型・2型)、治療の内容(飲み薬・インスリンなど)、直近のHbA1cなどの検査結果、合併症の有無、喫煙の有無。お薬手帳も持参する
主治医に確認するインプラント手術を受けてよい状態か、手術当日の食事と薬の使い方、低血糖が起きたときの対応
歯科医院に確認する主治医との連携の方法(情報提供書のやりとりなど)、手術の範囲と回数、治療後のメンテナンスの頻度

医院を選ぶときは、費用に加えて、主治医と連携して進めてくれるか、治療後のメンテナンスに通い続けられるかも確かめてください。

治療前に確認したいことは、次の記事にもまとめています。

「今は難しい」と言われたら

血糖のコントロールが不良で見合わせになった場合でも、それで治療の道が閉ざされるとは限りません。主治医のもとで血糖の状態を整えたあと、あらためて歯科医院で相談できます。

また、歯を補う方法はインプラントだけではありません。ガイドラインにも、保険診療で受けられる、より体への負担が少ない方法として、入れ歯やブリッジを検討する余地があると書かれています。治療の負担、費用、手入れのしやすさを比べると、自分に合う方法を選びやすくなります。

治療後に続けること

インプラントを入れたあとも、血糖の管理とメンテナンスの両方を続けます。日本口腔インプラント学会は、日頃の手入れに加えて定期的に歯科医院でメンテナンスを受けないと、不具合が起こることがあると説明しています。

  • 歯科医院で指示された間隔で、メンテナンスに通う
  • 歯ブラシに加えて、歯間ブラシやフロスなど、指導された道具で汚れを落とす
  • 歯ぐきの腫れや出血、インプラントのぐらつきに気づいたら、次の予約を待たずに受診する
  • 内科での治療を続け、血糖の状態が変わったときや薬が変わったときは歯科医院にも伝える

参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会「治療中・術後のトラブル対策」

費用と保険適用

インプラント治療は、原則として公的医療保険が適用されない自由診療です。健康保険が適用されるのは、外傷や腫瘍などの病気で顎の骨を失った場合や、先天的に歯や顎の骨が欠損している場合などに限られます(日本口腔インプラント学会「よくあるご質問」)。

費用は、本数、骨を補う処置の有無、人工の歯の素材、医院の料金体系によって異なります。糖尿病の方は、検査や主治医との連携、治療の進め方によって、通院の回数や費用が変わることもあります。見積もりで確認したいのは、総額に何が含まれるか(検査、手術、人工の歯、メンテナンス、保証)です。

よくある質問

1型糖尿病でもインプラント治療は受けられますか?

1型か2型かだけでは決まらず、血糖の状態と全身の状態をもとに判断されます。インスリンを使っている場合は、その内容と、低血糖が起きやすい時間帯などを歯科医師に伝え、主治医と連携して進めてください。

糖尿病の人は歯を抜いたほうがいいですか?

糖尿病があることだけを理由に、歯を抜くわけではありません。抜くかどうかは、歯の状態を診たうえで歯科医師が判断します。日本歯科医師会も、糖尿病になると傷の治りが悪くなるため、抜歯や手術などの大がかりな歯科治療が必要になる前に歯周病を予防しておくことが重要だと説明しています。

インプラントを入れたあとに糖尿病と診断されたらどうすればいいですか?

内科での治療を始めたうえで、糖尿病と診断されたことをインプラントのメンテナンスを受けている歯科医院にも伝えましょう。血糖の状態に合わせて、メンテナンスの間隔やセルフケアを見直す場合もあります。

糖尿病だと治療期間は長くなりますか?

骨との結合を待つ期間は、糖尿病の有無にかかわらず、骨の状態によって変わります。糖尿病の方は、血糖の状態を整えてから手術を行ったり、傷の治りを見ながら次の段階へ進んだりするため、全体の期間も変わりえます。見通しは、検査のあとに歯科医師から説明を受けてください。

まとめ

糖尿病の方がインプラント治療を受けられるかどうかは、病名ではなく、血糖と全身の状態で判断されます。学会のガイドラインにはHbA1cの目安が書かれていますが、数値だけで可否が決まるわけではなく、合併症や使っている薬、口の中の状態も合わせて見られます。

受診前に検査結果とお薬手帳を用意し、主治医と歯科医院の両方に相談しましょう。治療後も、血糖の管理とメンテナンスを続けることが、インプラントを長く使うことにつながります。

西川 健太先生

医療法人煌潤会 赤羽駅前歯科 院長

西川 健太(にしかわ けんた)先生

日本大学松戸歯学部卒。国際口腔インプラント学会(ISOI)認定医・専門医、DGZI Japan認定医、厚生労働省認定臨床研修指導医。

インプラント治療歴25年以上、手術実績は通算1万本以上。

ストローマン社エクセレンスパートナーに選出され、ザイゴマインプラント等の難症例にも対応する。

医療法人煌潤会 赤羽駅前歯科

自由診療に関する詳細内容

インプラント治療は、原則として公的医療保険が適用されない自由診療のため、費用は全額自己負担です。

  • 治療内容:顎の骨に人工の歯根(インプラント体)を埋め込み、骨と結合したあとに人工の歯を取り付ける。骨が足りない場合は骨造成などを行う
  • 費用(税込)の目安:本数、骨造成の有無、人工の歯の素材、医院の料金体系によって異なるため、検査後の見積もりで総額を確認する
  • 治療期間の目安:インプラントを埋め込んだあと、骨と結合するまで下の顎で2〜3か月程度、上の顎で4〜6か月程度おいてから人工の歯を作る(日本口腔インプラント学会「よくあるご質問」)。骨造成を行う場合や、血糖の状態によって進め方を調整する場合は、さらに長くなることがある。埋め込んだあとに歯ぐきをもう一度開く手術がない方法(1回法)とある方法(2回法)があり、骨造成を別に行う場合はその手術も加わる。通院は検査・手術・型取り・人工の歯の装着と、治療後の定期的なメンテナンスで続く。期間や経過には個人差がある
  • 主なリスク・副作用:手術後の痛み・腫れ・出血、感染、傷の治りの遅れ、神経の損傷によるしびれ、骨との結合不全、インプラント周囲炎、低血糖、人工の歯やネジの緩み・破損
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  • 本記事の医療情報は一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。
  • 医療・健康に関する情報は変更される場合があります。実際の受診・治療については医療機関へご確認ください。
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著者情報

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