人工歯根のインプラントは、歯を失った場所を補う治療です。今ある歯を動かすことはできないため、出っ歯の歯並びは治せません。出っ歯の治療で「インプラント」と呼ばれるのは、多くの場合、矯正治療の支えとしてあごの骨に一時的に埋める小さなネジ「歯科矯正用アンカースクリュー(矯正用インプラント)」です。
矯正用と人工歯根の違い、アンカースクリューでできることと限界、矯正・外科矯正・セラミック(補綴)の選び分け、前歯を失っている場合の考え方を整理しました。どの方法が合うかは出っ歯の原因によって変わり、精密検査を受けたうえで歯科医師が判断します。
この記事でわかること
- 矯正用インプラント(アンカースクリュー)と人工歯根のインプラントの違い
- アンカースクリューを使った矯正でできること・難しいこと
- 矯正・外科矯正・セラミック(補綴)の選び分け
- 前歯を失っている場合の治療の順番と、人工歯根の見た目の注意点
インプラントで出っ歯は治る?矯正用と人工歯根の違い
同じ「インプラント」という言葉でも、出っ歯の治療で使う矯正用と、歯を失ったときの人工歯根では、目的も使い方もまったく異なります。
| 項目 | 矯正用インプラント(歯科矯正用アンカースクリュー) | 人工歯根のインプラント |
|---|---|---|
| 目的 | 歯を動かすときの固定源(支え)にする | 失った歯の代わりに、かむ機能と見た目を補う |
| 形と大きさ | 国内の承認品はネジ部の直径1.2〜2.0mm、長さ4.0〜12.0mm | 歯の根の代わりになる土台で、その上に人工の歯を取り付ける |
| 材質 | 承認品はチタン合金 | 主にチタンまたはチタン合金 |
| 使う期間 | 矯正治療中だけ。歯を動かし終えたら撤去する | 骨と結合させ、長く使う |
| 保険 | 一般的な矯正は自由診療。顎変形症など保険の矯正では保険の対象 | 通常は保険が適用されない |
アンカースクリューは、2012年に「歯科矯正用アンカースクリュー」という一般的名称が新設され、医療機器として承認された製品が使われるようになりました。それまでは骨折の治療などに使う器具を流用していた経緯があり、日本矯正歯科学会がガイドラインを作って安全な使い方を示しています。
人工歯根のインプラントは、あごの骨にしっかり結合して動かなくなることで、かむ力を支えます。
参考:公益社団法人日本矯正歯科学会「歯科矯正用アンカースクリューガイドライン 第二版」
参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会「よくあるご質問」
矯正用インプラント(アンカースクリュー)でできること
アンカースクリューは、前に出た歯を後ろへ下げるときに、奥歯が前へ引っ張られるのを防ぐ支えとして使われます。
ワイヤーなどで前歯を後ろへ引くと、その反作用で、支えにしている奥歯まで前へ引き寄せられがちです。骨に固定したネジを支えにすれば、奥歯の位置を保ったまま前歯を下げたり、奥歯そのものを後ろへ動かして前歯を下げるすき間を作ったりする動きがしやすくなる、というしくみです。
歯を並べるすき間の作り方が増えるため、抜歯をせずに済む場合もあるでしょう。ただし、抜歯が必要かどうかは歯の大きさとあごの大きさのバランスなどで決まり、アンカースクリューを使えば必ず抜歯が不要になるわけではありません。
埋め込みから撤去までの流れ
局所麻酔をしたうえで、歯ぐきの上から、歯根と歯根の間などの骨にネジを埋め込み、ゴムやワイヤーをかけて歯を引っ張ります。埋め込む場所は、歯根どうしの距離や骨の厚みを検査して決めます。
歯を動かし終えたら、ネジを取り外します。
アンカースクリューが向かないケース
歯を動かせる範囲を広げる道具で、あごの骨の大きさや位置そのものは変えられません。
- 骨格が原因の出っ歯:上あごが前に出ている、下あごが小さい・後ろにあるなど、骨格のずれが大きい場合は、矯正だけでは改善に限界があり、あごの手術を組み合わせる外科矯正が検討されます
- 成長期の子ども:大人より外れやすいと報告されており、日本矯正歯科学会のガイドラインでは十分に注意して使うよう示されています
- 骨が薄い、歯の根どうしの間が狭い部位:ネジが安定しにくく、外れる原因になります
起こりうるリスク
日本矯正歯科学会のガイドラインでは、ぐらつき(動揺)、外れる(脱落)、感染、ネジが折れる(破折)、歯の根への接触を、治療前に説明すべきリスクとして挙げています。
外れる原因には、骨が薄い部位に埋めたこと、歯の根に近すぎること、周りの清掃が不十分で起きた感染、強すぎる力、硬い物をかんだときの力などがあります。外れたときは、場所を変えて埋め直すのが一般的な対応です。ぐらつきや腫れに気づいたら、自分で触らずに医院へ連絡してください。
参考:公益社団法人日本矯正歯科学会「歯科矯正用アンカースクリューガイドライン 第二版」
出っ歯の治療法の選び分け|矯正・外科矯正・セラミック
出っ歯を治す方法は、歯を動かす「矯正」、あごの骨を手術で動かす「外科矯正」、歯を削って被せ物で形を変える「補綴(ほてつ)」に分かれます。歯の根の位置やかみ合わせまで変わるのは、矯正と外科矯正です。
| 方法 | 何をするか | 歯の根の位置・かみ合わせ | 主に検討される場合 | 注意したい点 |
|---|---|---|---|---|
| 矯正(ワイヤー矯正、マウスピース型の装置など) | 装置で歯を少しずつ動かす | 変わる | 前歯の傾きや歯並びが主な原因 | 年単位の治療になり、終了後も保定が必要 |
| アンカースクリュー併用の矯正 | 骨に埋めたネジを支えにして歯を動かす | 変わる | 前歯を大きく下げたい、奥歯を前へ動かしたくない | 埋め込みと撤去の処置、外れるなどのリスク |
| 外科矯正 | 手術前後の矯正と、あごの骨を動かす手術を組み合わせる | 骨格から変わる | 骨格のずれが大きい出っ歯(顎変形症) | 入院を伴う手術。条件を満たせば保険の対象 |
| セラミックなどの被せ物(補綴) | 前歯を削り、被せ物をかぶせて形を変える | 変わらない | 歯の形や色も変えたい、歯並びのずれが小さい | 削った歯は元に戻らない |
外科矯正は、顎離断などの手術が必要な顎変形症と診断された場合、手術前後の矯正も含めて保険診療の対象です。ただし、保険で治療できるのは、国の施設基準を満たして届け出た医療機関に限られます。
参考:公益社団法人日本矯正歯科学会「矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは」
「セラミック矯正」は補綴治療で、矯正治療とは異なる
歯を動かす矯正治療ではなく、前歯を削ってセラミックの被せ物(冠)をかぶせ、見た目の歯並びを変える補綴治療です。
歯根の位置は変わらないため、かみ合わせや口元の突出感は変わらないこともあるでしょう。前に傾いた歯をまっすぐに見せるほど削る量が増え、削った歯は元に戻りません。歯を残したまま位置を変えたいのか、見た目の形を変えたいのかを整理してから、矯正と比べて検討するのが順序です。
参考:日本歯科医師会 テーマパーク8020「さし歯・冠・ブリッジ」
参考:公益社団法人日本補綴歯科学会「補綴歯科ってどんな治療?」
出っ歯の矯正そのものを詳しく知りたい方へ
出っ歯の原因のタイプ、年代による治療の考え方、矯正の流れや横顔の変化は、次の記事で詳しく解説しています。

前歯を失っている場合は人工歯根のインプラントも選択肢
虫歯やけがで前歯を失っている場合、その部分を補う方法の1つが人工歯根のインプラントです。ほかにブリッジや入れ歯があり、隣の歯への負担や費用、治療期間がそれぞれ違います。
| 方法 | 主な長所 | 主な短所 |
|---|---|---|
| 人工歯根のインプラント | 隣の歯を削らない。取り外しの手間がない | 手術が必要。保険が適用されず費用が比較的高い。治療期間が長め |
| ブリッジ | 取り外し式でない。保険適用内なら費用が比較的安い | 両隣の歯を削る。支える歯の負担が大きい |
| 入れ歯(部分入れ歯) | 保険適用内なら比較的安い。治療期間が比較的短い | 取り外しが必要。かむ力が弱い。留め具をかける歯に負担がかかる |
参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会「入れ歯やブリッジとの違いは」
前歯を失っていて、出っ歯も治したいときの順番
人工歯根のインプラントは骨と結合して動かないため、先に入れると、その後の矯正で位置を調整できません。出っ歯の矯正も考えているなら、人工歯根を入れる前に、矯正を担当する歯科医師とインプラントを担当する歯科医師の両方に治療の順番を相談してください。
前歯のインプラントが出っ歯のように見える場合
人工歯根は、あごの骨がある場所にしか埋め込めません。骨の量や形によっては理想の位置や角度に入れにくく、人工の歯が前に出たように見える原因になります。
骨が足りない場合は、骨を増やす処置(骨造成)を組み合わせる方法もとられます。治療前にCTで骨の立体的な形を確認し、仮の歯で見た目を確かめてから最終的な歯を作るかどうかも、相談のときに聞いておきたい点です。すでに入れたインプラントの見た目が気になる場合は、まず治療を受けた医院に相談し、必要に応じて別の歯科医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くのも一つの方法です。
人工歯根のインプラントで続けたいお手入れ
人工歯根は骨とはしっかり結合しますが、天然の歯と比べて歯ぐきとの結合が弱く、感染しやすい弱点があります。毎日の歯みがきと、医院での定期的な点検・清掃(メインテナンス)が欠かせません。
参考:公益社団法人日本口腔インプラント学会「よくあるご質問」
費用と保険の考え方
出っ歯の治療費は、方法と症例、医院の料金体系によって大きく変わります。アンカースクリューや被せ物の費用について、公的な相場は示されていません。
- 矯正:一般的な矯正は自由診療です。日本矯正歯科学会は、歯の表側に付けるマルチブラケット装置の場合、初診から保定期間の通院までを含めた一般的な総額を80〜120万円程度と案内しており、難しい症例ではさらにかかることがあります
- アンカースクリュー:矯正の費用に含まれる医院と、1本ごとに加算する医院に分かれます。外れて埋め直したときの費用も含めて確認しておきましょう。顎変形症など保険が適用される矯正では、アンカースクリューも保険の対象です
- 人工歯根のインプラント:保険が適用されず、全額自己負担です
- セラミックなどの被せ物:自由診療では、本数や素材によって費用が変わります
見積もりでは、検査・診断料、装置料、毎月の調整料、保定装置の費用が総額に含まれるかを確かめると、医院どうしを同じ条件で比べられます。
受診前に歯科医師へ確認したいこと
出っ歯の相談は、矯正歯科で精密検査を受けるところから始まります。前歯を失っている場合は、インプラントや補綴を扱う歯科医師にもあわせて相談すると、治療の順番まで見通せます。
| 確認したいこと | 聞いておく理由 |
|---|---|
| 出っ歯の原因は歯の傾きか、骨格か | 矯正だけで治せるか、外科矯正が必要かが分かれる |
| アンカースクリューを使う理由と、使わない場合の違い | 装置ありきでなく、自分に必要かを判断できる |
| 埋める本数・場所・使う期間 | 処置の回数と負担の見通しが立つ |
| 外れたときの対応と費用 | 埋め直しの費用が別にかかる場合がある |
| 抜歯が必要かどうか | 抜歯の有無で治療計画が大きく変わる |
| 見積もりに含まれるもの | 保定装置や調整料が別の場合、総額が変わる |
| (前歯を失っている場合)矯正と人工歯根の順番 | 人工歯根は入れた後に動かせない |
出っ歯とインプラントに関するよくある質問
まとめ
出っ歯の治療でいう「インプラント」は、多くの場合、歯を動かすときの支えに使う矯正用のアンカースクリューで、人工歯根で歯並びが治るわけではありません。アンカースクリューは前歯を下げる選択肢を広げますが、骨格が原因の出っ歯には外科矯正が、歯の形を変えたい場合は補綴が検討されるなど、原因によって合う方法は変わります。
まずは矯正歯科で出っ歯の原因を調べてもらい、前歯を失っている場合は治療の順番も含めて相談したうえで、見積もりに含まれる内容を比べて選んでください。
医療広告について
自由診療に関する詳細内容
矯正歯科治療、人工歯根のインプラント治療、セラミックなどの被せ物による治療は、保険が適用される場合を除き自由診療で、費用は全額自己負担です。
矯正歯科治療(歯科矯正用アンカースクリューを併用する場合を含む)
- 治療内容:装置を使って歯を少しずつ動かし、歯並びとかみ合わせを整える。必要に応じて、あごの骨に埋めたアンカースクリューを固定源にし、歯を動かし終えたら撤去する
- 費用(税込)の目安:装置の種類、症例、医院の料金体系によって異なる。日本矯正歯科学会は、表側のマルチブラケット装置で初診から保定期間の通院までを含めた一般的な総額を80〜120万円程度と案内している。アンカースクリューの費用が総額に含まれるかは医院によって異なる
- 治療期間の目安:日本矯正歯科学会の案内では、装置を付けている期間は通常2〜3年程度。その後、保定装置で歯並びを保つ期間がある
- 主なリスク・副作用:装置による痛みや圧迫感、むし歯・歯周病、治療後の後戻り、抜歯が必要になる場合がある。アンカースクリューでは、ぐらつき、脱落、感染、破折、歯の根への接触
人工歯根のインプラント治療
- 治療内容:歯を失った部分のあごの骨に人工歯根を埋め込み、骨と結合したあとに人工の歯を取り付ける。骨が足りない場合は骨を増やす処置を行う
- 費用(税込)の目安:本数、骨を増やす処置の有無、人工の歯の素材、医院の料金体系によって異なるため、検査後の見積もりで総額を確認する
- 治療期間の目安:埋め込んでから型を採るまで、下あごで2〜3か月程度、上あごで4〜6か月程度(日本口腔インプラント学会)。骨を増やす処置を行う場合はさらに長くなる
- 主なリスク・副作用:手術後の腫れ・内出血、感染、骨との結合不全、インプラント周囲の炎症、人工の歯の破損・脱落、ネジのゆるみ
セラミックなどの被せ物による治療
- 治療内容:歯を削り、セラミックなどの被せ物(冠)をかぶせて歯の形や色を整える。歯の根の位置は変わらない
- 費用(税込)の目安:本数、素材、土台の処置の有無、医院の料金体系によって異なるため、見積もりで総額を確認する
- 治療期間の目安:本数や土台の処置の有無によって異なり、型を採ってから装着まで複数回の通院が必要
- 主なリスク・副作用:削った歯は元に戻らない。削る量によっては歯の神経の処置が必要になる場合がある。被せ物が欠けたり外れたりすることがある
- 本記事の医療情報は一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。
- 医療・健康に関する情報は変更される場合があります。実際の受診・治療については医療機関へご確認ください。


