マウスピース矯正とは、透明なプラスチック製の装置(アライナー)を段階的に交換しながら、歯を少しずつ動かす矯正治療です。ブラケットとワイヤーを歯に固定するワイヤー矯正とは異なり、装置を患者自身で取り外せますが、決められた装着時間を守る自己管理が必要です。
また、すべての歯並びに適応するわけではなく、治療を受けられるかは歯科医師が検査と診断をもとに判断します。
この記事でわかること
- マウスピース矯正で歯が動く仕組みと治療の進め方
- 矯正用・歯ぎしり用・市販のマウスピースの違い
- 治療範囲による種類の違いと、装置選びで確認したいこと
- 日本矯正歯科学会が示すメリット・デメリット
- 向いている人・難しいケースと相談時の確認ポイント
マウスピース矯正とは|透明な装置を交換しながら歯を動かす治療

マウスピース矯正は、歯型やスキャンのデータから作製した複数枚のマウスピースを順番に使い、歯の位置を計画的に動かす治療です。1枚で動かす量はわずかに設計されており、交換を重ねることで目標の歯並びを目指します。
歯が動く仕組みはワイヤー矯正と共通です。装置から歯に力が加わると、歯を支える骨が吸収と形成を繰り返して作り替えられ、歯が少しずつ移動します。
治療の進め方
- 精密検査:エックス線撮影、歯型の採取や口腔内スキャンなどで、歯並びと噛み合わせを調べる
- 診断・治療計画:検査結果をもとに、歯を動かす順序と到達目標を決める
- マウスピースの作製:計画に沿って、形が少しずつ異なるマウスピースを作る
- 装着と交換:指示された時間装着し、決められたタイミングで次のマウスピースに交換する
- 経過確認・保定:通院して歯の動きを確認し、治療後は保定装置(リテーナー)で歯並びの維持を図る
日本矯正歯科学会の標準治療の指針では、マウスピース型の装置を使う場合も、担当する歯科医師がエックス線写真などによる検査・診断をもとに治療計画を立てるよう示されています。マウスピースは食事や歯みがきのときに外せますが、装着時間が不足すると計画どおりに歯が動きにくくなります。
歯ぎしり用・市販のマウスピースとの違い
「マウスピース」と呼ばれる装置には、歯並びを動かす矯正用のほかに、歯ぎしり・食いしばりから歯や顎を守るためのものなどがあり、目的が異なります。歯並びの改善を目指す場合は、歯科医師の診断のもとで作製する矯正用の装置を使います。
| 種類 | 主な目的 | 歯科医師の関与 |
|---|---|---|
| 矯正用マウスピース | 歯並びや噛み合わせの改善を目指す | 検査・診断・治療計画に基づいて作製し、通院で経過を確認する |
| 歯ぎしり・食いしばり用マウスピース | 歯ぎしりなどによる歯や顎への負担を和らげる | 歯科医院で歯型に合わせて作製するものと、市販品がある |
| 歯並びの改善をうたう市販品・直販品 | 歯科医院を受診せずに歯並びを整えることをうたう | 歯科医師による診察・検査・診断を経ない |
日本矯正歯科学会は、歯科医師が介在しないマウスピース型製品を自己判断で使って歯を動かすことは、歯科医学的に非常に危険であるとして注意を呼びかけています。市販品での矯正を考えている場合も、まず歯科医院で相談しましょう。
なお、「マウスピース」という言葉は、歯ぎしりや食いしばり対策として使う医療機器としても使われており、本記事で解説する歯列矯正用の装置とは目的が異なります。両者の違いが気になる方は、「【歯ぎしり・食いしばり対策に】マウスピースの効果は4つ|種類や注意点、よくある質問まで徹底解説!」もあわせてご覧ください。

マウスピース矯正の主な種類|治療範囲による違い
マウスピース矯正には複数のメーカー・システムがあり、対応できる歯の動きや治療範囲が異なります。大きくは、歯列全体を動かすことを想定したものと、前歯など限られた範囲を対象とするものに分けて説明されることがあります。
名称や対象範囲は医院やシステムによって異なるため、次の表は一般的な分類の目安です。
| 分類 | 主な対象 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 歯列全体を対象とするもの | 奥歯を含む歯並び・噛み合わせの改善 | 使用するマウスピースの枚数と治療期間の見込み、追加作製の条件 |
| 前歯など部分的な範囲を対象とするもの | 前歯の軽度なでこぼこ・すき間など | 噛み合わせの改善が必要ないか、対象範囲で目標を達成できるか |
| ワイヤーなど他の装置と併用するもの | マウスピースだけでは難しい歯の動きがある場合 | 併用する装置の種類と使用期間、費用の扱い |
部分的な範囲を対象とするものは、治療範囲が限られる分、噛み合わせまで含めた改善には向かない場合があります。費用の安さや期間の短さだけで選ばず、自分の歯並びにどの範囲の治療が必要かを検査後に確認することが大切です。
医療機器として認められた装置か確認する
日本矯正歯科学会は2022年の見解で、医療機器として認められていない機器で作製したマウスピースを使う矯正に注意を促しています。そうした装置では歯の移動結果が保証されず、患者にも不利益が生じる可能性があるためです。
治療を受ける前に、医療機器として認められた機器で作製された装置かどうかを歯科医院に確認し、説明を受けたうえで選びましょう。
治療範囲が狭いタイプほど費用を抑えやすい一方、「安さ」だけで選ぶと対応できる歯並びの範囲や仕上がりに影響することもあります。費用と選び方のポイントについては、「安いマウスピースは危険?安くマウスピース矯正をするコツも詳しく解説」もご参考ください。
ベストチョイス編集部からのひとこと
「インビザライン」はマウスピース矯正で広く使われている装置・システムの名称の一つです。マウスピース矯正という治療法全体の中に、インビザラインをはじめとした複数のメーカー・システムが含まれる、という関係になります。
インビザラインについて詳しくみる
インビザラインとは?治療の流れ・向いている人・始める前の確認点を解説


マウスピース矯正のメリット
マウスピース矯正の主なメリットは、装置が透明で目立ちにくいこと、自分で取り外せること、金属を使用しない製品があることです。日本矯正歯科学会も、マウスピース型矯正装置の利点として、他人から見えにくいことや、着脱が簡単で食事や歯みがきをしやすいことなどを挙げています。
見た目や日常生活への影響を抑えながら矯正治療を受けたい人にとって、検討しやすい選択肢の一つです。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 見えにくい | 透明な装置のため、他人から気づかれにくい |
| 食事や歯みがきがしやすい | 装置を外して食事や歯みがきができる |
| 金属アレルギーがあっても使用できる | 金属アレルギーのある人も使用できるとされている |
| 診療室での治療時間が比較的短い | 通院1回あたりに診療室で過ごす時間が比較的短い |
これらのメリットは、指示どおりに装置を使えることが前提です。取り外せる装置のため、装着時間を守れないと治療が計画どおりに進みにくくなります。
マウスピース矯正のデメリット・注意点|「よくない」と言われる理由
マウスピース矯正には、治療結果が装着時間の自己管理に左右されることや、適応できる歯並びに限りがあることなどの注意点があります。「よくない」という声を目にして不安な場合も、次の特徴を理解したうえで検討しましょう。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 装着時間で結果が変わる | 毎日長時間の装着が必要で、使用状況によって歯の動き方が変わる |
| 適応できる歯並びに限りがある | 大きな歯の移動や、骨格に原因がある歯並びでは、マウスピースだけでの治療が難しい場合がある |
| 紛失・破損のおそれ | 外したときに紛失・破損すると、再作製が必要になることがある |
| 装着中の飲食 | 装着したままの飲食は装置や歯に影響する場合があるため、医院の指示を確認する |
日本矯正歯科学会の2019年の見解では、マウスピース型矯正装置の欠点として、毎日長時間の装着が必要で使用状況によって効果が大きく異なることや、小児や骨格的な要因を含む症例には適さないことなどが挙げられています。適応の範囲は装置の種類や治療計画によっても変わるため、検査後に歯科医師へ確認してください。
また、矯正治療では装置の種類にかかわらず、歯根吸収(歯の根が短くなること)が生じる可能性があります。治療前の説明で、起こりうるリスクと経過観察の方法を確認しておきましょう。
マウスピース矯正が向いている人・難しいケース
マウスピース矯正が選択肢になりやすいのは、歯の移動量が少ない軽度の歯並びの乱れがあり、装着時間の自己管理を続けられる人です。一方、抜歯を伴う大きな移動や噛み合わせの大幅な改善が必要な場合は、マウスピースだけでは対応が難しいことがあります。
| 項目 | 向いている傾向 | 慎重な検討が必要な傾向 |
|---|---|---|
| 歯並びの状態 | 軽度のでこぼこやすき間、矯正後の軽度の後戻り | 抜歯を伴う大きな移動、骨格に原因がある歯並び |
| 自己管理 | 指示された装着時間を守れる | 装着時間の確保が難しい生活リズム |
| 装置への希望 | 見えにくい装置を使いたい、金属アレルギーがある | 装置の着脱や管理を自分で行うことに不安がある |
軽度に見える歯並びでも、噛み合わせや骨格の状態によってはほかの治療法が適する場合があります。自分が向いているかは、エックス線撮影や歯型・スキャンによる検査を受けて確認してください。


マウスピース矯正で「後悔した」「失敗した」と言われる主な理由
マウスピース矯正について、「後悔した」「失敗した」といった意見を目にすることがあります。治療後にイメージとの違いを感じる理由として、次のようなケースが考えられます。
マウスピース矯正だけでは対応が難しい歯並びだった
抜歯を伴う歯の大きな移動や、骨格的な要因が関係する歯並びなどでは、マウスピース矯正だけでの対応が難しく、ワイヤー矯正など別の治療方法が検討されることもあります。検査や診断が十分でないまま治療を進めると、想定していた治療結果との違いを感じることがあります。
決められた装着時間を確保できなかった
マウスピース矯正では、歯科医師から指示された装着時間を守りながら治療を進めます。装着時間が不足すると計画どおりに歯が移動せず、治療期間の延長や治療計画の見直しが生じることがあります。
費用や治療範囲を十分に確認していなかった
マウスピース矯正には、前歯を中心とした部分的な矯正から、噛み合わせを含めた全体的な矯正までさまざまな治療方法があります。契約前に治療範囲や追加費用などを十分に確認していないと、希望していた治療内容との違いが生じることがあります。
治療開始前には、検査や診断を受けたうえで、マウスピース矯正で対応できる範囲や治療計画、費用、治療期間などについて説明を受けておくと、治療内容を理解しやすくなります。
また、マウスピース矯正だけでの対応が難しいと判断された際に、どのような治療方法が検討されるのかも確認しておくとよいでしょう。
マウスピース矯正を相談するときの確認ポイント


マウスピース矯正は自由診療となることが多く、使用する装置や治療範囲、費用の設定は医院によって異なります。相談時は次の点について説明を受け、治療計画書や見積書などの書面で確認しましょう。
- 医療機器として認められた機器で作製した装置か
- 検査の内容と診断結果、マウスピース矯正で目指せる範囲と限界
- マウスピース以外の治療法や、他の装置との併用が必要になる可能性
- 総額に含まれる項目と、再作製・保定装置などの追加費用
- 治療期間の見込みと通院頻度
- 紛失・破損、中断、転院時の対応と精算方法
説明に納得できない場合や治療法の選択に迷う場合は、別の歯科医院で意見を聞くことも検討してください。
契約前に見積もりや治療計画を書面で確認しておくと安心です。対応範囲や費用は医院により異なります。


よくある質問
Q.ワイヤー矯正とマウスピース矯正は何が違いますか?
大きな違いは、装置を患者自身で取り外せるかどうかです。ワイヤー矯正は歯に固定した装置で歯を動かし、マウスピース矯正は装置を着脱しながら装着時間を自己管理して治療を進めます。どちらが適しているかは、必要な歯の動きや口腔内の状態によって異なります。
Q.マウスピース矯正の治療期間はどのくらいですか?
治療期間は、歯並びの状態や動かす範囲、装着時間を守れているかによって異なります。前歯など限られた範囲の治療と歯列全体の治療では、必要な期間に差が出ます。具体的な見込みは、検査後の治療計画で確認してください。
Q.マウスピース矯正の費用はどのくらいかかりますか?
マウスピース矯正は自由診療となることが多く、費用は治療範囲や医院によって異なります。検査料、調整料、再作製、保定装置などが総額に含まれるかも医院ごとに違うため、見積書で内訳を確認しましょう。
Q.マウスピース矯正に痛みはありますか?
新しいマウスピースに交換した直後などに、歯が締めつけられるような感覚や痛みを感じることがあります。感じ方には個人差があります。痛みが強い場合や長く続く場合は、自己判断で装着をやめず、治療を受けている歯科医院に相談してください。
Q.治療を始めてから「合わない」「思っていたのと違う」と感じた場合、返金してもらえますか?
返金の可否や条件は、契約内容や医院の規定によって異なります。多くの医院では治療計画書や契約書に、中断時の返金・清算方法についての取り決めがあるため、契約前にその内容を確認しておくことが大切です。
契約内容に納得できないまま治療を進めるのではなく、違和感がある時点で担当医に相談し、必要であれば治療計画の見直しや、別の歯科医院でのセカンドオピニオンも検討しましょう。特定商取引法に基づくクーリングオフなどの制度が適用される場合もありますが、適用条件は契約形態によって異なるため、消費生活センターなどの公的な窓口に相談することも一つの方法です。
Q.治療が終わった後に歯並びが戻ることはありますか?
矯正治療の後は、歯が元の位置に戻ろうとする「後戻り」が起こることがあります。そのため、治療後は保定装置(リテーナー)を使い、歯並びの維持を図ります。保定の期間や使い方は、歯科医師の指示に従ってください。
まとめ
マウスピース矯正は、透明な装置を段階的に交換しながら歯を動かす矯正治療です。見えにくく取り外せる一方、装着時間の自己管理が必要で、適応できる歯並びにも限りがあります。
検討する際は、医療機器として認められた機器で作製した装置か、検査に基づく診断で自分の歯並びに適応があるかを確認しましょう。まずは矯正治療を行う歯科医院で検査を受け、治療計画書と見積書をもとに判断してください。
- 本記事の医療情報は一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。
- 医療・健康に関する情報は変更される場合があります。実際の受診・治療については医療機関へご確認ください。
インビザライン
- 未承認である旨:インビザラインは医薬品医療機器等法(薬機法)上の承認を受けていない未承認医療機器です。海外で患者ごとに製作されるカスタムメイドの装置で市場流通性がないため、薬機法上の医療機器にも、歯科技工士法上の矯正装置にも該当しないとされています(出典:日本矯正歯科学会掲載「厚生労働省 平成26年6月4日付事務連絡」)。
- 入手経路:米国アライン・テクノロジー社の製品で、同社日本法人(インビザライン・ジャパン合同会社)を通じて歯科医院が入手しています(出典:インビザライン・ジャパン「会社概要」)。
- 海外での認証・安全性情報:米国では1998年に、FDA(食品医薬品局)の市販前届出(510(k))で販売が認められています(出典:米国食品医薬品局(FDA)510(k) K981095)。これまでに世界で1500万人を超える患者が治療を受けています(2023年3月時点。出典:インビザライン・ジャパン「会社概要」)。痛みや違和感、歯根吸収、歯肉退縮、後戻りなど、ほかの矯正治療と同様のリスクが生じる可能性があります。









